沈む陽と蜜柑
「あ、もしもし?いきなりで悪いんだけど今日時間ある?ちょっと来てほしいんだけど…」
マサキからの突然の電話。
ここ最近お互い忙しくてずっと連絡してなかったから、と思って、メールでも送ろうかと思った矢先だった。
「あ、うん…」
2ヶ月振りに訪れるマサキの家。歩いて10分程の距離なのに、長いこと来てないせいか、妙に久々な気がした。
「ごめんなー、わざわざ来てもらって。まぁとりあえず上がって~」
相変わらずの小汚い部屋。
洗濯物やらコンビニの袋やらが散乱している。
角に置かれたダンボールに、大量のみかんが入っていた。
「…何このみかんの山。」
「あぁ、これな、実家から送られてきたんだけどさぁ、こんなにあったらどう考えても食べきれないだろ?だからあげようと思って」
…まさかそれだけの為に呼んだのかよ。
なんて思いつつ、お互い近況を話していた。
「あ、そんでオレ、先週破局した。アハハ、振られちゃったよ」
「へ?別れた!?っていうかアハハっておまっ…」
「んでさー、今日この後、前々から気になってたメル友と会うの。」
「立ち直り早っ!!
…あ、それだったら俺あんまり長居してちゃダメだね?喋ってたら大分時間経っちゃったし、そろそろおいとまするわ」
「あれ、もう帰んの?まだもうちょっとは大丈夫だよ?」
「ううん、また改めてメシでも誘うわ。じゃ、今日は頑張って。」
…別れた、って聞いた時、自分の中にちょっと期待があった気がした。そんなもんあっさり蹴飛ばされちゃったけど。
嫉妬なんだろうか。メル友に会うって聞いて、なんか、急に帰りたくなった。
「諦めてたつもりなんだけどなぁ…」
独りでとぼとぼと歩く川沿いの道。
気が付いたらすっかり陽は傾いて、ビニール袋に沢山詰め込まれたみかんと同じ色に染まった空が、余計に寂しさを駆り立てた。
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