灰と雪空
「まーたこんなトコにいる。」
「なんだ、来てたのかよ」
毎週水曜日のこの時間。必ず洋輔はこのビルの屋上でタバコを吸っていた。
「いつもいつも来ててよく飽きないね、…確かに眺めはいいけど。」
「ヒマなんだよ、この時間は」
そう言ってタバコをふかしながら遠くを眺める洋輔の目は、どこか物寂しげだった。
…きっと思い出の場所か何かなんだろうな、とは思ったけど、僕は何も訊かなかった。
「…タバコ変えた?」
「オマエ吸わないのによく分かるな」
「吸わないからこそニオイに敏感なんだよ」
…多分洋輔以外の人なら、そんな事気にもしないだろうけど。
「…それにしても寒いね、今日は。」
風が冷たかったので、しゃがみ込んで膝を抱えた。
ふと、手に何か冷たい感触があった。
「あ、雪。」
「初雪だな。」
無口にタバコを吸っていた洋輔がぼそりとつぶやいた。
「オマエ相変わらず独り身なの?」
「…うん」
「ふーん…」
「何で?」
「いや、何でもない」
そう言って、洋輔はまた、遠くに目をやった。
「…メシでも食いに行くか」
「え?」
振り返ると、相変わらず遠くを見つめたまま、
冬の重たい色の空と、雪と、タバコの煙と灰と、
全てがモノクロの景色の中で、
洋輔だけが鮮やかに色づいて、僕の目を放さなかった。
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