オムライス記念日

「ぅう…ん…ダメだよ…図書室じゃブロッコリーは採れないよ…
 …………図書室?」
意味不明な自分の寝言で目が覚めた。
カーテンの隙間からこぼれる光。
あぁ、今日も仕事に行かなきゃと、僕は時計の方を見た。

「11…時、半。……11時!?」
いつも起きているのは8時半。
もうとっくに仕事が始まっている、それどころかもうすぐ昼休みになる時間だった。

「うっわ、寝坊!?大遅刻じゃんか!!どーしよ~……」

取り合えず慌てて飛び起きると、床にあったリモコンを踏んでしまったらしくて、突然テレビの電源が入った。

『こんにちは、サンデーニュースの時間です。』

「………あ、今日、日曜日。」

慌てて損した。

「そっか、昨日は功輔と仕事帰りに飲みに出たんだっけ…朝から何ボケてんだろ。」

そういえばベッドに功輔がいない。
いつもは平日だろうが休みだろうが、絶対僕の方が先に起きるのに。

「ふぁぁ…おはよー…、何、料理?珍しい。」

功輔はやっぱり先に起きていた。しかも、いつもは料理なんてしないのに台所で何か作っている。

「おはよ。今日は起きるの遅かったなー。って昨日飲んでんだから仕方ないか。
 さ、ちょうどご飯出来たから、食べよ。」

「え、何、どういう風のふきまわし?普段ご飯作ってんの僕なのに。」
「別にー。たまには作りたくなる日もあんの。」

そう言って功輔がテーブルに並べたのはオムライスだった。

今までコイツが作った卵料理なんて、目玉焼きかスクランブルエッグしか見たことなかったのに。

「…ちょっと、ホントどーしたの、今日。」
「いいから食べてみ。」
勧められるままに取り合えず一口食べてみる。

「………うまい。」
ほとんど料理のイメージなんて無かったのに、功輔の作ったオムライスはすごく美味しかった。

「よかった、ちょっと自信なかったんだよねー。さ、俺も食お。」


…しばらくして、半分ほどを食べてから聞いてみた。
「ところで何でオムライスなの?」

「カレンダー見てみ。覚えてたらの話だけど。」
功輔はもう三分の二を食べ終えていた。

「カレンダー?
 ……あ。」

そういえば、一年前の今日って、ちょうど僕と功輔が同居を始めた日だった。
「そっか…最初に作ったの、オムライスだっけ」

最初の日、僕が気合いを入れてオムライスを作ったんだった。
手料理を食べてもらったのも確かあれが最初だった。

「練習したんだからな。まだお前には負けるけど。」
少し照れくさそうにしながら、功輔は最後の一口を食べた。

「…ううん、十分おいしい。」
少し遅れて、僕もオムライスを食べきった。


「来年は…」
コップのお茶をぐいっと飲み干してから、功輔が言った。


「来年はまたお前が作ってな、オムライス。」

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