

御祝 ミルクとコーヒー
「…あ。今日もまた来てる」
会社から歩いて5分かからない場所にあるカフェ。
いつもは昼休みによく同僚のOL達と魔女会議に使っているのだが、たまに休日に一人で来ると必ず見かける、ある男。
「またコーヒーだけ飲んでる…
あ、しかもやっぱりミルクたっぷり。」
テラスで一人コーヒーを飲む例の男をチラチラと眺めるオレ。
何だか最近休日の習慣になってないか、コレ。
「あれ、戸田じゃん」
「へ!?…っ、ごほっ、ごほっ!!」
後ろから突然、ましてや男をまじまじと見ている最中に話しかけられたもんだから、つい、飲みかけていたコーヒーを噴き出しそうになってしまった。
「何だ、小野かよ。ごほごほ…っ、脅かすなよ」
話しかけてきたのは、いつも昼休みに一緒にこのカフェに来る、会社の中でも一番仲のいい小野(訳知り三十路女)だった。
「何だって何よ、っていうかアンタ休みの日まで来てんだね、ここ」
「別にいつも来てる訳じゃねーよ、今日は偶然。」
「ふーーん…」テラスを見渡す小野。
「分かった、あの角に座ってる男が目的だ。
うわ~、しかも飲み物まで揃えて同じもん頼んじゃって。」
「ぶっ!」
あまりに的確に当てられたもんだから、またしてもコーヒーを噴きそうになってしまった。
「ちょっとアンタさっきからむせすぎよー。
まぁ、アンタの好きそうなタイプよね、アレ。」
「もう…放っといてくれよ」
「あ、あの人帰っちゃうみたいよ?」
小野とギャーギャー騒いでる間に例の男はコーヒーを飲み終えたらしく、立ち上がってテラスを離れようとしていた。
ふと、その時。
「あ、目が合った」
例の男がオレの方を見て、
…あれ、こっちに来てる?ひょっとしてコレ、脈アリ?うそ、オレにもついに3年振りの春が来るの?
「あのー、前からよく来られてますよね、平日の昼とかにも」
なんとまぁ、男が本当に話しかけてきたのだった。
「え、あ、は、はい」
(うわーーーーーどーしよーー大当たりだよコノヤローー!!)
「俺ファンなんすよー。前田健二さんですよねー?」
「へ?」
横で小野が必死で笑いを堪えてるのが、僅かに視界に入った。
前田健二って、アレか。アツウラマヤのモノマネしてるあの女装芸人か。
(オレのこの数週間は何だったんだーーー!!)
退くにも退けなくて交わした握手。
あれだけ気になっていた男の手の温もりが、こんなに寂しいものだとは。
…咲きかけていた桜は、見事に散ったのだった。
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