

三番目の季節
今朝は、いつもより早く目が覚めた。
まだ寝る時間はあったんだけど、なんだか頭もすっきりしてたし、何の用事もないのに、早くから学校に行くことにした。
「さっすがに誰も来とらんなー…」
誰もいない朝の校舎。
いつもギリギリで投稿するオレには初めての光景だった。
南校舎の2階が3年生の教室。
トントンと階段を登って教室の方へと向かうと、
カタッ、と、物音が聞こえた。
(あれ、3-2の教室から聞こえたよな。こんな時間から誰か来とるんやろか?)
少しだけ警戒しながら、ゆっくりと教室を覗いた。
「あ、ヤスやんか。
どしたんぞお前こんな時間から」
中にいたのは同じクラスのヤスだった。
ぼーっと黒板の方を眺めていたヤスは、教室に近づくオレの足音にも気づいてなかったらしく、声をかけるとビクッと肩を動かしてこっちを向いた。
「と、トシ?たまげたわー。何でこんな時間に来とるんよ?」
「いや、何か早よ目が覚めて。お前こそ何でこんな早いん?」
「日直。言うてもこんな早よ来んでもええんやけどな、お前と同じよ。早よ目ぇ覚めたんやけどすることもないし。」
「ふーん…」
とりあえず自分の席に鞄を置いて、座るオレ。
相変わらずヤスはボーっと黒板を眺めていた。
「なんでさっきから黒板ばっかり見とるんよ」
「いや、別に…」
いつもは仲がいいのに、今日は何だかぎこちない空気が流れていた。
少しの沈黙。
先にそれを破ったのはヤスだった。
「もう、あとちょっとでセンター試験やん?」
「…うん」
「俺な、言ってなかったんやけど、こないだ志望校変えたんよ」
ヤスの言葉に驚いて、オレは少しの間固まってしまった。
「…え…っ、だって、こないだまでオレと同じトコ受けるって…」
「やっぱりな、俺、県外の大学受けようと思て。
ごめん、なんでやろ、何か言えんかった」
何も言えなかった。
大学もヤスと同じところに行けると思って、嫌いな勉強もいつもより頑張って、偏差値だって上がったのに、ヤスは更に遠いところを目指してた、いつの間にか。
「やっぱり俺医者目指そうと思て。
ほやけん、やっぱり県内の大学やと、な。
もっと早よ言いたかったんやけど、…ごめん」
そう言うヤスの表情が、何故か、いつもより大人びて見えた。
何にも考えずに、ただ周りがそうしてるからって、皆と同じ大学を受けて。
こんなオレより、いつの間にかヤスは大人になってた。
「…オレ、ホンマは……」
言うつもりはなかったのに、あの言葉が、何故か溢れてきた。
「お前とずっと一緒に居れる思うて、あの大学にしたのに、、」
「…え?」
「好…き、なんよ、オレ、ヤスの、ことが。」
このままずっと同じ学校に行くのなら、言うつもりはなかった。こんな台詞。
崩れるくらいなら、今の関係のままいたかったから。
何故か、溢れてくる言葉を抑えることができなかった。
「…トシ……」
ヤスは目を伏せて、また黒板の方を向いた。
重たい空気を破るように、校門からは、ガヤガヤと登校してくる生徒たちの声が聞こえ始めていた。
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