星屑のポタージュ

「うっわ~…結局コンビニだけかよ、今日の外出」

せっかくの休みだっていうのに、誰かの誘いがある訳でもなく、結局一日中ゴロゴロして、外に出たのは日が暮れてから。
それも、ただコンビニで今日が支払い期限の電気代を払いに行っただけ。

「つーか、寒すぎるって、今日。」
この冬一番の寒波が到来してるだの何だので、家にいた時は感じなかったけど、えらく寒い。

「なんか温かいもんでも買えばよかった…」

とにかく早いこと家に帰ろうと思って、途中、いつもは通らない公園を通ることにした。
ここを通った方が近道にはなるのだが、まぁ、ここはいわゆる発展公園という場所で、かといってイイ男がいる訳でもなく、前に一度ブッサイクなオッサンにしつこく付きまとわれたりといった経験もある訳で、夜には滅多なことがない限り通らないルートなのだった。

「いくらなんでもこんな寒い日にゃあ誰もいねーだろ、さっさと通っちゃお」
と、少し早足で公園を突っ切ろうとした時、街灯の下に誰かいるのが見えた。

「…違うよな、こっちの人間じゃないよな」
しかし公園を抜けるにはそっちに行かなければならなくて、ブツブツ言いながら、できるだけ目を合わせないようにして、街灯の下の男の前を通り過ぎようとすると、

「あ、すいません」
声を掛けられてしまったのだった。

(やっぱりこっちかーーーーーーーい!!!!)

そのまま無視すりゃいいのに、何故か振り返って相手の顔を見てしまった。

「あれ?」

見覚えのある顔。

「あ、やっぱり。慎治くんじゃん」

「あ、えーと、昌司くん、だっけ?」
声をかけてきたのは、この間行きつけのバーで知り合った同い年の昌司という子だった。

「何、この寒い日に発展ですかい?」
「んな訳ないじゃん、コンビニ行っただけ。ウチこの辺だからさー。」
「え、そーなの?俺ん家も割と近いよ?ご近所さんだったんだ~」

「…で、昌司くんこそ発展ですかい?」
「んーと、近かったりして。あはは。
掲示板の人と待ち合わせだったんだけど、なんか来ないみたい。ちょっと気合い入れてたのに。」

「あ、そーなんだ…お互い寂しい休日なのね。
ちょっとさ、せっかくだしそこ座ってちょっとだけ喋んない?こないだ店で会った時俺すぐ帰っちゃったしさぁ。」

「うん、…あ、じゃあ俺、なんか温かいもん買ってくる」

そう言って近くの自販機で何か飲み物を買ってきた昌司の手には、コーンポタージュの缶が握られていた。

「…な、なんかいいセレクトだね、ポタージュって」
「え、だってこの前コーンスープが好きって言ってたじゃん」

「…そんな事言ってたっけ…っていうかよく覚えてんね、そんな事」
「まぁね。とりあえず座ろ、このベンチ小さいけど」
ベンチが小さい分お互いの距離が近くて、少し触れた肩が温かかった。

コーンポタージュを少し飲んで、ふと、空を見上げてみた。

「…うわー…、星、すげぇ。」
雲のない夜空が広がって、冬の澄んだ空気に、満天の星が煌いていた。

「なんか、俺、星見たの久しぶりかも。」
「俺も。…こんなに綺麗だったっけ。」

しばらく二人してぼーっと空を眺めていた。
公園の前を一台の車が通り過ぎると、急に辺りは静かになった。

「意外と温まるもんだね、ポタージュだけでも」
「うん…」昌司はまた一口、コーンポタージュを飲んで、白い息を吐いた。

「俺さ、前に店であんまり慎治くんと話せなかったのがちょっと寂しくってさ、次いつ飲みに出るのかなーとか、いろいろ思ってたわけ。」
心なしか昌司が俺にもたれかかってきた気がして、また少し、寒さが和らぐ。

「…今日、会えてよかったかも。」
そう言って、昌司はまた空を見上げた。

「…俺も。」
本当はあの日、別の店で友達と飲む約束がなければ、もっと昌司と話していたかった。
「あんまり喋れなかったから…今度はいつ会えるのかなって。」

自分で言った台詞が恥ずかしかしくて、また少し寒さが消えていった。

「今日…もう予定ないんだろ?」
何となく、聞かなくても分かってることを聞いてみる。

「うん」昌司は上を見たまま返事をした。

「じゃあさ、ウチ、来てみる?」
「…うん。」次の返事も、上を見たまま。

「でも、もうちょっと星見てからにしようかな。」

さっきまでポケットに突っ込んでいた手をいつの間にか出して、お互い、空を見上げたままその熱を重ねていた。


ただ、星が綺麗で、辺りは静かで、
気づかないうちに、さっきまでの寒さはすっかり消えていた。

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