晴色の傘


いつも彼の家に行くときはこの歩道橋を渡っていた。

橋の下を通る車は激しく水しぶきを上げながら走る。

雨。
最初の日も雨だった。



『うわ、今日天気予報じゃ晴れって言ってたのに…』
休みにはいつも行くファミレスで昼飯を済ませると、外は滝の様な大雨だった。
『傘買おうにもコンビニまで結構距離あるしな~…かといってここで止むまで待つのも…』
その場でブツブツ言いながら外の天気とにらめっこしていると、後ろから誰かが話しかけてきた。

『あの…これ良かったら僕の置き傘なんで使って下さい』
いつも来る度に見かける若い店員だった。
『え、でも…』
『いいんです、今日は別に傘を持ってきてるんで』
『あ、…ありがとう』

半透明の青いビニール傘。傘越しに空を見上げると、雲が青く染まって晴れたようだった。

それから例のファミレスに行く事が多くなった。
いつの間にか彼とは友達になって、
いつしかお互い好きだった事に気がついて……


「あれからちょうど一年か…」

歩道橋の真ん中で足を止め、水たまりに映る自分を見る。

傘越しに見た空は、青かった。

「最期に相応しい晴れ空だな」

そう呟いて、俺は歩道橋を反対側へと渡った。

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